マムシグサというサトイモ科の植物がある。
短大生の頃の私は、その存在を知ってはいたのだが、実物を見る機会はなかなか無かった。
マムシグサは秋に赤くて綺麗な実をトウモロコシ状に付けるのだが、全身にサポニンやコイニンといった毒がある。マムシグサの実は食べると痛いよーという話を先輩から聞いていた私は、もし実物を見ることができたら絶対に味見をしてやろうと思っていた。
そんな短大2年生の時、ご縁があり森林調査のアルバイトをすることになった。
森林ということは、もしかしたら珍しい植物が見られるかもしれない、と私はワクワクした。
鳥取の山奥に篭もること4日目、これまで色々な植物を見る事ができたが、その中でついに私は実物のマムシグサと遭遇した。
なるほど、名前の通り茎にマムシのような模様がある。
ヘビが大嫌いな私は、本物のマムシを見ると確実に腰を抜かすが、マムシグサは全然平気であった。
しかも、季節は10月。ちょうどその実は真っ赤に染まっている。なるほど、ベリー系のようで美味しそうだ。毒がある事を知らなければ、食べてしまう人もいるかもしれない。
しかし、毒があることを知りながら食べる人間もいる。植物オタクや、私のような人間である。
私は早速、その実を1つ摘んでみた。いきなり1粒食べるのは勇気がいるため、試しに果汁を少し押し出し、ペロッと舐めてみた。
ちょっとだけ甘みのあるピーマンみたいな味だ…と思ったのも束の間、口の中に激痛が走る。
無数の針で舌を刺されているような痛みだ。
♪嘘ついたら針千本飲ます♪という歌があるが、実際に針千本飲んだらこんな感じであろうか。
私は急いで果汁を吐き出した。ひと舐めでこのざまだ、もし1つ丸ごと食べていたら大変なことになっていただろう。
その日の夜、この痛みの正体を調べてみると、シュウ酸カルシウムの結晶が原因だそうだ。その結晶の画像を見てみたが、まさに針!といった感じだ。食べた者を殺る気マンマンである。
この結晶はヤマイモやナガイモ等にも含まれる。トロロを食べたあとに口の周りが痒くなるのも、このシュウ酸カルシウムのせいである。
だが、マムシグサのあの痛みは間違いなくトロロの痒みの100倍は深刻だ。私はもうあんな思いはしたくない。
仮に毒があることを知らずに純粋な気持ちで食べた人がいたとしても、あの痛みがあれば間違えて飲み込むことは絶対に無いだろう。
口に入れた瞬間に脳みそが赤信号を出す。
あんなに美味しそうな色で、今まで中毒者が出ていないのだろうか?と思っていたが、心配は無用、中毒者が出ることはまず有り得ない話だったのである。
マムシグサについて他に面白い話があるのだが、それは次回触れることにする。
ぜひ見ていただけるとありがたい。
ちなみに、森林調査5日目で本物のマムシに危うく噛まれそうになった私は、やはり腰を抜かし、ヘビ嫌いに拍車がかかったのである。(数日後、ギックリ腰になった。)
fuuka