昨日は久しぶりに天気の良い日曜日であった為、娘を八代市のとある公園に連れて行った。
公園に到着すると、巨大な遊具と共に、ピンク色の花を満開に咲かせる樹木の姿が目に飛び込んできた。
2月下旬に見頃を迎えるサクラ、それは紛れもなくカワヅザクラ(河津桜)であった。
カワヅザクラは、昭和30年頃に静岡県河津町に住む男性が偶然見つけ、自宅に移植した。
初めは「この桜、ちょっと珍しいぞ」という気持ちで移植したのであろうが、その後の調査でオオシマザクラとカンヒザクラの自然交配種、つまり雑種であると判明したそうだ。
雑種とはいえ新種で、更に美しい花を咲かせるとなると全国に広まるのも当然の話である。
カワヅザクラは2月中旬~3月中旬頃までが見頃であると言われているが、その年の気候によって開花時期は大きくずれることがある。
現に、今年の寒波の影響で熊本のカワヅザクラは去年より2週間も遅い開花であった。
なかなか気まぐれなヤツだ。
しかし、1度咲いてしまえば花期は約1ヶ月と長い。
一瞬で終わってしまうソメイヨシノ等とはえらい違いである。
ところで、他のサクラ属よりも開花が早く楽しませてくれるカワヅザクラであるが、あまり開花時期が早いと生きて行く上でのデメリットもある。
それは、花粉の媒介者である虫が少ない事である。
例えばニホンミツバチ等は、最低でも12~15℃以上で活動を開始する。
活発に活動を始めるのは、20~25℃になってからである。
昨日の八代市の最高気温は12℃であった為、ミツバチ達はさてそろそろ働くかと重い腰を上げ始めた頃であろう。
つまり、2月ではまだ少し寒いのだ。
まだ本腰を入れていない虫たちが多い中、カワヅザクラは今か今かと咲き続けるのである。
しかし、もし寒い時期に活動を始めることが出来る虫がいるとすれば、その虫にとってカワヅザクラはオアシスである。
まだ他の花が少ない時期に花期を合わせることにより、ライバルを減らしているのかもしれない。
これらは単に私の想像に過ぎないが、植物の生存競争というのは、実に面白い。
fuuka
マムシグサというサトイモ科の植物がある。
短大生の頃の私は、その存在を知ってはいたのだが、実物を見る機会はなかなか無かった。
マムシグサは秋に赤くて綺麗な実をトウモロコシ状に付けるのだが、全身にサポニンやコイニンといった毒がある。マムシグサの実は食べると痛いよーという話を先輩から聞いていた私は、もし実物を見ることができたら絶対に味見をしてやろうと思っていた。
そんな短大2年生の時、ご縁があり森林調査のアルバイトをすることになった。
森林ということは、もしかしたら珍しい植物が見られるかもしれない、と私はワクワクした。
鳥取の山奥に篭もること4日目、これまで色々な植物を見る事ができたが、その中でついに私は実物のマムシグサと遭遇した。
なるほど、名前の通り茎にマムシのような模様がある。
ヘビが大嫌いな私は、本物のマムシを見ると確実に腰を抜かすが、マムシグサは全然平気であった。
しかも、季節は10月。ちょうどその実は真っ赤に染まっている。なるほど、ベリー系のようで美味しそうだ。毒がある事を知らなければ、食べてしまう人もいるかもしれない。
しかし、毒があることを知りながら食べる人間もいる。植物オタクや、私のような人間である。
私は早速、その実を1つ摘んでみた。いきなり1粒食べるのは勇気がいるため、試しに果汁を少し押し出し、ペロッと舐めてみた。
ちょっとだけ甘みのあるピーマンみたいな味だ…と思ったのも束の間、口の中に激痛が走る。
無数の針で舌を刺されているような痛みだ。
♪嘘ついたら針千本飲ます♪という歌があるが、実際に針千本飲んだらこんな感じであろうか。
私は急いで果汁を吐き出した。ひと舐めでこのざまだ、もし1つ丸ごと食べていたら大変なことになっていただろう。
その日の夜、この痛みの正体を調べてみると、シュウ酸カルシウムの結晶が原因だそうだ。その結晶の画像を見てみたが、まさに針!といった感じだ。食べた者を殺る気マンマンである。
この結晶はヤマイモやナガイモ等にも含まれる。トロロを食べたあとに口の周りが痒くなるのも、このシュウ酸カルシウムのせいである。
だが、マムシグサのあの痛みは間違いなくトロロの痒みの100倍は深刻だ。私はもうあんな思いはしたくない。
仮に毒があることを知らずに純粋な気持ちで食べた人がいたとしても、あの痛みがあれば間違えて飲み込むことは絶対に無いだろう。
口に入れた瞬間に脳みそが赤信号を出す。
あんなに美味しそうな色で、今まで中毒者が出ていないのだろうか?と思っていたが、心配は無用、中毒者が出ることはまず有り得ない話だったのである。
マムシグサについて他に面白い話があるのだが、それは次回触れることにする。
ぜひ見ていただけるとありがたい。
ちなみに、森林調査5日目で本物のマムシに危うく噛まれそうになった私は、やはり腰を抜かし、ヘビ嫌いに拍車がかかったのである。(数日後、ギックリ腰になった。)
fuuka
さて、前回の投稿からだいぶ日が経ってしまったが、気まぐれなので許してほしい。
昨日の夜、某世界冒険系番組でインドネシアの特集をしていたのだが、そこでチラッとへクソカズラの紹介がされていた。
へクソカズラなんて日本にもあるじゃないかと夫と2人ツッコミを入れつつ見ていたのだが、出演者がへクソカズラの匂いを嗅ぎ、臭い臭いと大騒ぎしているのを見て、私は首を傾げた。
たしかにへクソカズラは、葉や茎に傷を付けるとその名の通り『屁糞』のような匂いを放つ。
これはメルカプタンという成分によるものだが、人間や動物のフンやスカンクのオナラにも含まれている。どうやら虫害を防ぐ為の匂いらしい。
しかし、これが少しクセになる匂いなのだ。
とても、臭い臭いと大騒ぎするような匂いでは無いと思う。大里造園の看板犬、こまのウンコの方がよっぽど臭い。
私はへクソカズラを見つける度に、葉をちぎって匂いを嗅いでいる。
あの匂いを嗅ぐと、少し心が安らぐのだ。
それなのにへクソカズラ等という可哀想な名前を付けられたこのつる性植物は、夏になると漏斗型の大変可憐な花を咲かせる。
その花の可愛らしい姿から、サオトメカズラ(早乙女葛)とも呼ばれる程だ。 屁糞とはえらい違いである。
つる性であるが故、庭に生えてくると少々取り除くのが厄介だが、好む人もいる。
秋に丸い実を付けるのだが、この実がツヤツヤしていて美しいと、リースや生け花等に使われるのだ。
しっかり乾燥させれば、臭いと嫌われがちなあの匂いも消えてしまう。
決して、ただの嫌われ者では無いのである。
そんな美しく有用な植物であるが、やっぱりへクソカズラという名前は少々可哀想すぎる。
私個人の気持ちで言うと、できればサオトメカズラの方で世間様に広がって欲しい。
だが、屁糞のインパクトが強すぎるが故に覚えやすいのも事実であるため、植物の面白さを伝えたいという私の欲求を満たすのにはこちらの方が都合がいい。
へクソカズラには覚えやすさの代償として、この先ずっとこの名前で我慢して頂くしかないだろう。
fuuka