アメリカガシワという、とてもユニークな形をした葉を持つ樹木がある。主にはピンオークという名で呼ばれ、オークというからにはブナ科コナラ属の植物である。
ピンの部分は私の勝手な想像だが、葉先の形がどことなくピンヒールに似ているからではないかと思った。完全なるこじつけである。
私とアメリカガシワの出会いは、短大2年生の初夏頃であった。
どこの大学でも、大抵卒業する前には卒業論文とか、卒業研究などを発表する場がある事だろう。
私が通っていた短大も例外でなく、ゼミごとの卒業研究発表会というものがあった。
私たちのゼミは樹木医学に特化しており、人数が4人と非常に少なく、5つあるゼミの中でも最小人数だった。
我々のゼミではなにを発表しようかと4人で話し合い、その結果、すす病の研究をしようということになった。
キャンパスを出てすぐ目の前にある街路樹が、すす病にかかっていた為である。
しかしそれだけでは味気がないし、聞き手が興味を持ちにくいだろうと考えた私たちは、各々が好きなテーマで研究したものを持ち寄り、1番面白かったものを追加で発表することにした。
すす病の研究は順調に進んでいたが、自分だけのテーマがなかなか思い浮かばない。
私が好きなものは樹木全般であるが、樹木の何を研究テーマとするかで悩んでいた。
私は、何かヒントを得るため、山の中にある別館のキャンパス敷地内を歩いてみた。
樹木の1年間の成長サイクルでも研究してみようか。それとも、すす病以外の病気を調べてみようか。
いろいろ考えたが、なかなかピンとくるものがない。どうしたものか。
ふと目線を上にやると、実に様々な樹木が新緑を輝かせている。それを眺めていたのだが、瞬間、とても珍しい形をした葉が目に飛び込んできた。
このような形の葉を持った樹木を、私は知らなかった。かなりの高木であるにも関わらず、今までの学生生活でとくに注意深く見ることも無く、気付けなかった。私は悔しかった。
そのため、その場でスマホを開き、この樹木のことを調べようと思った。
しかし、名前が分からないので調べようがない。足元に丸いどんぐりが落ちているので、ブナ科あたりであることは間違いないのだ。
しかし、ブナ科で画像検索しても同じ形の葉は見つからなかった。
てんで見当がつかず途方に暮れた私は、DNA鑑定ができたらなぁ…などと都合の良いことを考えていたが、そういえばゼミの先生が、カビからDNAを取り出し、菌の種類を特定していたことを思い出した。
…これは、立派な研究テーマになるかもしれない。
そう思った私は、その樹木から葉を1枚だけ頂き、回れ右してゼミの先生の元へと走ったのだった。
【続く】
fuuka