
八代に引っ越してきてからよく見かけるようになった樹木のひとつに、イスノキがある。
イスノキは、暖かい地方の山などに自生するようで、それなら九州でよく見かけるのも納得できる。
私の地元の山口県では、たまにしか見られなかった。
イスノキの最大の特徴は、葉に虫こぶができることである。虫こぶとは、虫の巣のようなものだ。
イスノキにはアブラムシがよくつくのだが、これが虫こぶを形成する。
アブラムシはイスノキの葉に入ると、成虫になるまでそこで過ごす。
成虫になった後はこぶを破って出ていくのだが、この時空いた穴に息を吹きかけると「ひょんっ」と笛のような音がするそうなのだ。
それで、別名が「ヒョンノキ」という。
本当に「ひょんっ」という音がするのか気になるところだが、元々虫が入っていたような所に口をつけて吹く勇気は私にはないため、真偽は不明である。
イスノキは、この虫こぶが最大の特徴であるため、虫こぶの無いものは熟練の庭師でも見分けが付きにくい。
よく、クロガネモチなどと間違えられるようである。
もっと個性を全面に出してくれても良いのに、と思う。
しかし、木材となるとイスノキは一皮剥ける。
イスノキの木材は重く硬く、その性質から家具や、木刀などにも使われる。
確かに、木刀などは簡単に折れてしまっては示しがつかない。
そこで、イスノキの硬さは重要なのだ。
適度に重さがあるというのは、振り回すのにも丁度いい。
軽い木刀だと少し不安が残る。
この事から、イスノキは木刀にするのにはとても良いのだ。
特徴が無いなどとバカにしてはいけなかった。
とても重要な役割を果たしているではないか。
イスノキは、この世に無駄な樹木など1本もないということを教えてくれたのだった。
fuuka
道を歩いていると、たまにキャンディのような、甘い香りが突然漂ってくることがある。
近くにお菓子屋さんがある訳でもなく、カフェがある訳でもない。
そんな時は、足を止め、辺りを見渡してみよう。
足元や頭上にもしハート型の葉を見つけたら、その葉から香りが漂っているので間違いない。
カツラの木の葉である。
カツラは、ハナズオウ編で少し名前を出したが、ハート型の葉をつける樹木のひとつだ。
このカツラの葉が乾燥したら、とても甘いいい香りがする。
私はこの香りが大好きで、似たような香りのする香水も持っている。
今でも売っているのかは分からないが、ボディファンタジーのコットンキャンディーの香りがカツラの香りにとても近い。
とはいえ私は普段、そんなに香水を使うタイプでは無いため、たまに部屋でシュッとやって楽しむ程度にしている。
私が付けるには、甘すぎる香りなのだ。
こういうのは、背が小さくて、なんだかフワフワした、天使のような女の子がつけるものだ。
そういう訳で、娘がもう少し大きくなったら、娘にあげようかと思っている。
さてカツラの話に戻るが、カツラは樹形がとても美しいため、近年庭木に使われることが多い。
小洒落たエクステリアの雑誌などを開くと、ほぼ必ずと言っていいほどカツラをシンボルツリーにしたお宅が1件はある。
葉の形が可愛い上、良い香りがし、樹形も美しい。あと、病害虫にも強い。
ひとつ難点があるとすれば、落葉樹であるため掃除が大変ということだろうか。
しかしそれが苦にならなければ、庭木として大変優秀である。
カツラは寿命が1000年を越すものもあり、とても長いのだが、種で繁殖する力が弱い。
そのため根元に萌芽を出し、それを伸ばすことによって主幹を更新していく。
これで、現在の主幹が枯れてしまったとしても、根元にある別の枝が大きく成長すれば、自身の生存は約束されるという訳だ。
つまり、ご家庭のカツラも根元から萌芽しやすい。
切ってしまいたいところだが、カツラは自然樹形こそ美しい樹木であるため、何も考えずただ切ってしまうとよろしくない。
プロに任せるべきであろう。
カツラの剪定にお困りの方は、ぜひ大里造園に連絡していただきたい。
fuuka
娘の保育園の送り迎えをしている道中、ヤエザクラが咲いているのを見つけた。
毎日通る道なのに何故今頃見つけたのかと言うと、写真のように、雑草の蔓が被さっているので見つけにくくなっており、ひっそりと咲いていたからである。
ヤエザクラというのは、「ヤエザクラ」という品種がある訳ではなく、八重に咲くサクラのことを総称してそう呼ぶ。
その始まりは、オオシマザクラやヤマザクラ等の雑種から誕生したようである。
八重咲きについて詳しいことは、このブログの番外編①を参照にしていただきたい。
ヤエザクラにも種類が沢山あるが、中でも珍しいものを紹介する。
「御衣黄(ギョイコウ)」という品種のヤエザクラがあるのだが、これは花弁が緑色なのである。花が緑色というのは、なかなかに珍しいのではなかろうか。
緑色の正体はもちろん葉緑素だ。ギョイコウの花弁の裏側には、なんと気孔もある。
これでは、花ではなくほぼ葉じゃあないか。
しかし、植物が咲かせる花の花弁は、元々葉から派生したものであるため、花=葉と言っても間違ってはいないのである。
ギョイコウは、花=葉であると言うことを分かりやすく我々に教えてくれているのだ。
ソメイヨシノが終わって、なんだか寂しいなぁ…と思っているところにヤエザクラが咲き始めるのは、自然界の粋な計らいだろうか。
春は美しい花たちが咲き乱れ、新年度を応援してくれる。
例えばアメリカ等であれば、新学期は9月であるため、サクラ等咲くはずも無い。
日本に生まれて良かったと、改めて感じるのだった。
fuuka
料理が好きな方は、ローリエという葉をご存知だろう。
ローリエとは、ゲッケイジュの葉を乾燥させたものである。
その良い香りは、樹木の近くに寄っただけでは感じにくいが、葉をちぎって嗅いでみると、あ、ローリエだ。とよく分かるであろう。
ゲッケイジュといえば、枝を編んで冠状にした、月桂冠というものがある。
ギリシャ神話に出てくるような神様だか偉そうな人が、頭に葉のついた冠を被っていたなら大体この月桂冠である。
勝利の栄光として贈られるものである為、オリンピック等で目にすることもあるだろう。
ゲッケイジュというものは、香りが強い上、クスノキ科であるため虫など寄ってこなさそうだが、とても病害虫が付きやすい。
特によく見かけるのは、すす病やカイガラムシだ。
すす病というのは、虫のフンとか、成虫が幼虫に与えるために分泌する甘いミツとかにカビが繁殖し、葉にすすがついたように見える病気のことである。
つまり、虫が付きやすい樹木には、すす病もよく見られるということだ。
料理に使うものは、もちろん細心の注意を払って栽培されたものだと思うが、口に入るものにすすが付いていれば、洗い落としたとしても多少嫌な気分になるものである。
そのため、その辺に生えているゲッケイジュの葉を使う時は、葉が黒ずんでいないか確認した方が安心だろう。
ゲッケイジュにはローリエという別名の他、ベイリーフとも言う。
ベイリーフと言えばポケモン第2世代目の御三家が進化したものだが、あのポケモンのモチーフはゲッケイジュから来ているものだということが分かる。
ポケモン図鑑にも、「くびまわりのつぼみからスパイシーなかおりをだし、かいだひとをげんきにさせる」と書いてあることからも、間違い無さそうだ。
大人気ゲームの割と早い段階からモチーフにされたこのゲッケイジュ、ぜひ積極的に料理に使ってみてはいかがだろう。
fuuka
私は、ハゼノキにとても弱い。
ウルシ科であるハゼノキを切り、その切り粉が肌に触れようものなら、次の日から赤いぶつぶつと、地獄のような痒みが約1ヶ月は続くのだ。
地獄というからには本当に地獄で、寝る前や風呂上がり、日中など、体温が上がる要因が揃った瞬間、痒みでのたうち回る。
被れた箇所をハサミで切り取ってしまおうかと思うほどだ。
だから極力ハゼノキには触れたくないのだが、奴らは実生でよく増える。
その上、道の端やコンクリートの壁の隙間など、陽の当たるところならどこにでも生えるため、よく撤去を頼まれる。
撤去の時は、いつもの手袋の下に更にゴム手袋をはめ、服の袖を手袋の中へ入れ込み、首元へタオルを巻き、完全防備で臨まなければならない。
これだけの手間でその後1ヶ月を平穏に過ごせるならば、安いものだ。
ハゼノキは、素人が安易に手を出して良いものではない。
ハゼノキでもこんなに被れるのだから、ウルシではもっと被れるに違いない。
これ以上の痒みなど、自殺した方がマシなのでは?という考えが浮かんでしまいそうだ。
幸いまだウルシを切ったことはないため定かではないが、できれば一生手をかけずに済ませたいものである。
さて、そんなハゼノキでもいい所はある。
まず、紅葉がとても美しいことだ。
ウルシ科の樹木は、秋になるとその葉を真っ赤に染める。
紅葉する樹木というのは他にも沢山あるが、大体赤にオレンジや黄などが混ざる。
そのグラデーションも美しいのだが、ハゼノキの葉は赤1色である。単色というのも、実に風情があるものだ。
次に、実から蝋(ロウ)が取れることである。
江戸時代などはロウソクが高級品だった為、ハゼノキもそれはそれは重宝されたものであろう。
外灯などもなく、夜に出歩くことが難しかった人々の、夜更かしのためには欠かせない存在なのである。
しかし、現代には電気がある。ロウソクなどはケーキの飾りとか、葬式くらいしか使い道がない。
ハゼノキの役目は、紅葉が癒しになる事以外は、もうほぼ終わってしまったのかもしれない。
せめて被れることさえ無ければなぁ…と私は今日もポツポツと赤くなった腕を掻きむしりながら思うのである。
fuuka
今の時期は、ちょうど新芽の芽吹きが始まる頃である。
どの樹木も、小さな葉を出し始めている。
特にイチョウの新芽などは、あの独特な形の葉がそのまま小さく出てきており、とても可愛らしい。
イチョウにはオスメスがあり、メスの方にはあのギンナンが採れる実がなる。
私は居酒屋などでギンナンがあればほぼ必ず注文するのだが、あのホクホク感は本当に病みつきになる。
塩をパラッと振りかけ、焼酎と一緒に頂くのが好きだ。
私が大学生のころ、芋焼酎にハマり、よく飲んでいた。
我ながらジジくさい大学生であるが、芋焼酎のあの独特の匂いが子供の頃から好きだったのだ。
私がアルバイトをしていた居酒屋にも、冬になるとギンナンが入荷されたため、シフト外の日にもよく立ち寄り、芋焼酎とギンナンを食べに行っていた。
娘が生まれてから酒など飲む機会はめっきり減ったため、なぜあのころ芋焼酎があんなに好きだったのか分からない。
今は焼酎より、カルーアミルクとかファジーネーブルとか、甘いお酒が大好きだ。
芋焼酎も独特な匂いだが、イチョウの実もなかなかに酷い臭いがする。
ギンナンはほぼ無臭であるため知らない人は知らないのだが、ギンナンの周りの果肉が酷く臭うのである。
イチョウはよく街路樹として植えられているが、オスなら良い。
これがメスだった場合、最悪だ。
もし落ちている実を踏んで、その後車などの密室に入ったりしようものなら、最早テロである。
犬のウンコを踏んだのではというような強烈な臭いが充満し、しばしドヨーンとした空気に包まれる。
楽しいドライブが、そんな残念なことになっては困る。
イチョウのオスメスは実がなってみないと見分けがつきにくいものであるが、できるだけ街路樹には、オスのイチョウを植えて欲しいものだ。
そんなイチョウだが、オスメス共に秋の黄葉は見事なものである。
道路脇が黄色く染まる様子を見ると、あ〜、秋だなぁ…となんだか寂しくなってくる。
秋になると少し寂しく感じるのは何故だろう。
私は秋が1番好きな季節だが、こういう感傷に浸りたくなるのも好きな理由のひとつである。
fuuka
道路脇等に、背の高いヤシの木が生えているのを見つけたら、大概はこのワシントンヤシである。
ヤシの木といえば、ヤシの実が生り、ココナッツジュースが飲めるアレを想像するであろうが、アレはココヤシという、ワシントンヤシ別種のヤシである。
私が子どもの頃、ヤシの実というのは憧れの存在だった。あの実を採って、ストローを刺してジュースを飲んでみたかった。
きっととても甘い、フルーティーな味がするのだろう。
ココヤシは日本では全く見かけないが、ワシントンヤシならあったので、私はあれにヤシの実が実るのだろうとずっと勘違いしていた。
大人になってからヤシの実にストローを刺した、まさしくココナッツジュースを飲んでみたが、思ったほど甘いわけでもなく、少し風味のついた水といった感じだった。
子どもの頃のワクワクは、この1杯とともに消えたのだった。
さて、ワシントンヤシの話に戻るが、「ワシントン」というのは、アメリカの初代大統領の名前から来ているようである。
その全長は15mから20mにもなり、かなりの高さになる。
高さがあるということは、手入れもそれなりに骨の折れる作業になる。
大里造園では、巨大クレーン車でゴンドラを吊ってもらい、それに乗って剪定をするという方法をとっている。
これがまあほんとに恐ろしい。
風など吹こうものなら、安全帯をしていても頼りなく、作業の手を止め、手すりを掴み、子鹿のようにぶるぶる震える他ない。
もし落下でもすれば、骨が折れるどころでは済まない。
私の夫などは、観覧車などの高い所が苦手なのだが、このゴンドラには涼しい顔をして乗っている。
いや、内心怯えているのかもしれないが、仕事ならばと割り切っているようだ。
これに乗れて、観覧車に乗れないというのは、どういった心理なのだろうか。
どちらも必ず安全であるとはいえないが、観覧車の方がまだマシに思える。
と、このように、背の高い樹木なども剪定できるので、ご家庭で手の届かない樹木の剪定をしたい時は、ぜひ大里造園にご依頼願いたい。
さて、前回の続きの話である。
ゼミの先生の元に葉を持っていった私は、「この葉からDNAを取り出して、樹種を同定することはできますか?」
と尋ねた。
すると先生は、「少しお金がかかっちゃいますが、できますよ。それを卒業研究にするなら、ゼミ費から出せるよ」
と私の言いたかったことを先回りして提案してくださったのだった。
そういうことなら有難くゼミ費を使わせて頂くことにして、私の研究テーマは「謎の樹木の正体をDNAから暴く」に決まった。
元々アメリカガシワを知っている人からすると謎でもなんでもないのだが、当時の私には未知の樹木に見えた。
このように、知りたいという好奇心が私を掴んで離さなくなってしまったのだった。
さて、DNAの取り出し方だが、工程が複雑で記憶が曖昧なため、覚えている範囲で書いていく。
まず葉をすり鉢で粉々に砕く。これは細かければ細かいほど良い。
砕いた葉を何やら透明な液体に入れ攪拌し、網目の小さなメッシュでこす。
こしたらまた攪拌機に入れる。これをもう一度繰り返したような気がする。
もうただの透明な液体にしか見えないが、本当にDNAが取れるのだろうか?
そこへ、エタノール(だったと思う)を液体の2倍くらいの量入れ、しばらく待つ。
すると、何やら白いフワフワしたものが浮かび上がってきたではないか。
これがDNAである。
こんなモヤのようなものに、生命の設計図が詰まっているのかと思うと神秘を感じた。
その後、北海道にある科学研究所に取り出したDNAを送った。
ここで少しお金がかかってしまうのだ。確か5000円程だったと思う。
しばらく待つと、塩基配列がびっしり並んだメールが送られてきた。
どのようにしてあのモヤを塩基配列に変換したのかは不明だが、たった4つのアルファベットの組み合わせ次第でどの生物か区別できるだなんて、本当に不思議だ。
この塩基配列を、インターネット上にあるデータバンクに入力した。
すると、ズラっと英語が並び、よく見ると何かの学名のようであった。
なるほど、データバンクには学名で登録されているのか。
納得した私は、1番上に表示されている「Quercus palustris」という文字をコピーし、Googleの検索欄にペーストした。
……そこには、私が見た樹木そのものの写真が載っていた。
それは、ピンオーク、和名アメリカガシワという名前だと分かった時、とんでもない達成感に包まれた。やはりブナ科というのは間違いではなかった。
紅葉するということも知り、その時の美しさは尋常でない。
好奇心が満たされるというのは、こういうことか。
後にも先にも、これ程スッキリとした事はなかったと思う。
結果、少しの悔しさと好奇心からDNAを取り出すまでに至った私の研究は、ゼミ生から面白いとして選ばれ、発表会の大トリを飾った。
長々と語ってしまったが、それ程までに思い出のある樹木なので許してほしい。
私は今でもアメリカガシワが大好きだ。
しかしあの発表会直後、この短大1番の古株である先生から、「あのピンオークは40年くらい前に、自分が余っているものを適当に植えたものだ」と聞き、この人に尋ねれば一発だったのでは……適当に……あの苦労は一体……
と、真っ白に燃え尽きた灰になったのである。
fuuka